資料館生薬データベース

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生薬名

入手時名称麝香
正式名称麝香
日本語読みじゃこう, Jakō
現地読みShexiang
ラテン名Moschus (CP)
英語名Musk (CP)
原植物名Moschus moschiferus Linn., ジャコウジカ
原植物科名Cervidae, シカ科
薬用部位分類動物性生薬
細分類哺乳類・臓器
TMPW No9087

学術情報データベース

一般生薬名麝香, Shexiang, Moschus (CP2020), Musk (CP2020)
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原植物名Moschus moschiferus Linn., ジャコウジカ
原植物画像
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原植物科名Cervidae, シカ科
薬用部位雄の麝香腺分泌物の乾燥品
選品香気が強烈で,当門子のあるものが良質.軟質でアンモニア臭の強い,湿った感の強いものは劣品(TN).
公定書薬典(2020)
臨床応用興奮,強心,鎮痙,鎮静,排膿,解毒薬として,神昏してうわごとするもの,小児の驚癇,神経衰弱症,心腹痛,打撲損傷,その他危急の症に応用する.また日本では,家庭薬製剤原料としての用途が多い.
医学体系中国医学
伝統医学的薬効分類開竅薬
薬効[性味] 辛,温.
[帰経] 心、脾経.
[効能] 開窮醒神,活血通経,消腫止痛.
[主治] 熱病神昏,中風痰厥,気郁暴厥,中悪昏迷,経閉,癥瘕,難産死胎,胸痺心痛,心腹暴痛,打撲傷痛,痺痛麻木,癰腫瘰癧,咽喉腫痛に用いる.
成分情報脂肪酸 Fatty acids
(*C1):
脂肪酸/ fatty acids

その他の脂肪族関連化合物 Other aliphatic and related compounds
(*C1):
Muscone, Normuscone

ステロイド Steroids
(*C1):
5alpha-Androstane-3,17-dione, 5beta-Androstane-3,17-dione, 3alpha-Hydroxy-5alpha-androstane-17-one, 3beta-Hydroxy-5alpha-androstane-17-one, 3alpha-Hydroxy-5beta-androstane-17-one, 3beta-Hydroxyandrost-5-en-17-one, Androst-4-one-3,17-dione, 5alpha-Androstane-3beta,17alpha-diol, 5beta-Androstane-3alpha,17beta-diol, 5beta-Androstane-3alpha,17alpha-diol, Androsta-4,6-diene-3,17-dione

ステロール Sterols
(*C1):
Cholesterol, Cholestanol, Cholest-4-en-3-one

ピリジンアルカロイド Pyridine alkaloids
(*C1):
Muscopyridine

その他の含硫化合物 Other sulfur containing compounds
(*C1):
Musclide-A1, Musclide-A2, Musclide-B

成分 構造式



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薬理作用心機能亢進作用.血圧降下作用.男性ホルモン様作用.抗炎症作用.
DNA配列AB019645, AF026883
証類本草(中国古典)※画像をクリックすると本文の画像が表示されます
適応症神経衰弱, 腹痛, 打撲, 中風, 経閉, 気鬱, 咽喉痛, 麻痺
方剤六神丸
広恵済急方(日本古典) 

Tips!

1. 卒倒の類: 人俄に倒れる病の類
└ 1-9. 恐怖卒死
: 物に驚いて目を回す
凡人夕暮れ又は夜中厠にいき、或は郊野へ出て、或は空冷屋室に遊び、又はしらざる所の地に行き、ふと異形のものを見て口鼻の内へ邪悪の気を吸い入れ、たちまち地に倒れ、手脚冷え上がり、両手を握り、面の色青黒く、或は口鼻より清血を流すことあり 
【疾患注釈】凡(おおよそ)卒(にわか)に倒れて無性に成し病人は、聲を立ることなき者なり、惟小児の驚風並に大人の癲癇驚怖(てんかんものおどろき)して気絶するとの三証は、叫聲(わっとこえ)をあぐる也 是を其証拠(しょうことす)
【用法】
・ 病人を外へ移し動かすべからず、其所に置て親戚衆人圍繞(しんるいおおぜいうちより)て火を焚き、安息香麝香の類香ある薬を焼き、人の覺(おぼえ)少々出るを待てうごかすべし 先急に半夏の末を鼻孔中(はなのあなのうち)へ管にて吹込或は皀莢の末両鼻中に吹入るよし <上巻34丁>
麝香五分研(すり)て醋一合に和匂(よくまぜ)てのませてよし <上巻34丁>

1. 卒倒の類: 人俄に倒れる病の類
└ 1-11. 疔毒昏憒
: 疔の毒により気を失う
凡人平居無事にして、暴(にわか)に死る者あり、何故なる事をしるべからざるは、撚紙(こより)に火を點(とも)し死人の遍身(そうみ)を見るべし、若(もし)小瘡(ちいさいできもの)あらば、是疔毒内に入たるなり 面部等の顯(あらわれ)たる所に生たるは、見易き故に知易し、身體手脚(からだてあし)の隠たる所に生じたるは見えがたきゆえ知かたし、故に往々見誤る事あり、又は初発に憎寒壮(さむけつよく)熱ありて、傷寒と會(こころえ)て療理し、救わざるに至る物あり、此証急に救わざれば半日に死す、死て後其屍(そのしかばね)に紫黒の点あるべし、疔毒なり、故に此証緩(ゆるやか)にすべからず 
【用法】先小瘡の上に灸すべし (疔瘡妄(みだり)に灸すべからず 然れども昏かいたるものは灸するをよしとす) 甦て後に雄黄一味末となし酒にて服すべし、麝香少し許を入最よしとす <上巻50丁>

2. 卒暴諸証: 突然発症する病
└ 2-10. 急黄
: 突然全身が黄色になる
【疾患注釈】人卒然(にわか)に渾身(そうみ)黄色になり、心腹(むねはら)満悶(みちもだえ)て、気急(いきつまり)、喘息する者あり、命頃刻(しばらく)の間在り、危殆(あやうき)病なり 
【用法】煖(あたためたる)醋にて瓜蒂末四五分を服すべし、即吐却すべし、吐するをよしとす、もし吐かざるは沙糖一塊を含(ふくみ)嚥(のみこむ)べし 若(もし)又吐てやまざるは、麝香を湯にて少々飲むべし <中巻38丁>

3. 外傷の類: 怪我や蟲獣(むし、けだもの)に咬まれる等の外傷
└ 3-11. 諸獣囓傷
: 獣に噛まれる
 └ 鼠咬: 鼠に咬(かまれ)たる
【用法】先急(まずさき)に焰消を傷處に封付置(ぬりつけ)て、火を点(つくる)ときは火を発す、毒火に随(つれ)て散るなり、其後に麝香を傳て、内に白躑躅の花、或は千窟菜を煎じ服すべし、多服するをよしとす <中巻86丁>

4. 横死の類: 病死以外の死
└ 4-5. 凍死

【疾患注釈】初は顔色青惨(あおざめ)、或は目運(めまい)し、後には惣身すくみ手足ふるえ、漸々(ぜんぜん)に冷あがり、こわわり直(すぐ)になり、唇の色青黒、脈至て沈伏(しずみかくれ)、或は脉なきに至り、口も言うことならず、遂に倒れ無性になるなり 
【用法】大葱白一把(ひとつかみ)線(いと)にて紮(くくり)、上と下を切りてひらくし●(絵文字)如是ならしめ、麝香二部五厘、硫黄二部五厘此二色を臍の内へ納置き、其上へ右の扎(くくり)たる葱を安(おき)、其上を熨斗(ひのし)様の物へ火を盛て熨すべし、葱ただるるとき換(とりかえ)々のすべし、病人手足温かに汗発して癒るなり、若火もなき處ならば、凍人を毛氈或は藁薦杯(むしろなど)に裹(つつみ)て、索(なわ)にてしかとくくり、平穏(たいら)なる處に放(おき)、傍人(かいほうにん)にて相對(むかいあい)て裹置(つつみおき)たる凍人を、數次(いくたび)も軽々(そろそろ)往來(あちこち)へ滾轉(ころばす)べし、四肢自温和になり、活(よみがえる)べし <下巻14丁>

6. 諸物中毒: 諸毒にあたる類
└ 6-1. 中諸薬毒
: 諸薬の毒にあたる
 └ 瓜蔕服吐不止: 瓜蔕を服して吐いて止まない
【疾患注釈】瓜蔕を服して吐き止まず、煩悶(くるしみもがく)
【用法】麝香湯にて服すべし <下巻42丁>

6. 諸物中毒: 諸毒にあたる類
└ 6-2. 中諸穀菜毒
: 穀類や野菜の毒にあたる
 └ 中甜瓜毒: 甜瓜を食し毒に中(あたり)たる
【用法】麝香少し許白湯にて服すべし <下巻49丁>

8. 臨産急証: 出産に関する急病
└ 8-1. 難産

【疾患注釈】正産(兒の頭正直に出るなり)にして生下(うまれ)かぬるを碍産(がいざん)という、又兒先足を露(あわらす)を逆産とす、又兒先手を露を横産(おうさん)という、又兒母の後(いしき)のかたへ挂(かかり)しを棖後(とうご)という、又兒母の左か右の方へ偏(かたより)、兒の額角(こびんさき)を露(あわらす)を偏産(へんさん)という
【用法】
麝香一匁水にて服すべし、或は塩(納豆なり)一両、舊(ふるき)青布に裹(つつみ)、火に焼き赤くなりしを研り末となし、二味和匂(よくまぜ)て一匁許を秤錘(はかりのふんどう)を焼きて酒の中へ入れ、淬(にらき)て其酒にて服さしむ、亦良し <下巻71丁>
雲母末にして、一匁温酒(かんざけ)にて服す、麝香少し許入、最よし <下巻71丁>

10. 小児急証: 小児の急病
└ 10-3. 臍風
: 新生児喘息して臍腫脹し、泣声が出ない
【疾患注釈】面赤、喘息、啼聲出ず、臍張(へそはり)て突起(たかくで)、腹張満(はらはりみち)て日夜啼て乳を吮ことあたわず、或は搐搦(てあしびくつき)、口噤て撮(とがり)、凡(おおよそ)臍の邉(ほそのへん)青黒は理すべからず 
【用法】田螺三箇に麝香少し許を入れ、搗き爛て臍上に搭(おき)、須臾(しばらく)して再びぬり易(かえ)て腫れ消(しょう)す <下巻85丁>

10. 小児急証: 小児の急病
└ 10-8. 走馬牙疳
: 歯茎がただれ、歯が落ちる
【疾患注釈】齒齦(はぐき)損爛(くずれただれ)、或は腫紫黒色(くろむらさきいろ)に成、齒縫(はのはえぎわ)より鮮血出、口内臭気あり、毒深(つよき)は臭気も亦つよし 身に熱あり、甚しきは齒落、唇鼻顋(えら)頬までも攻蝕(かけとれ)て脱去(おちる)に至る、遅ときは死に至る 
おおよそ疱瘡麻疹(ほうそうはしか)、或は熱病時毒等患いたる後、息臭、口中臭気あるは、其毒消鮮せさるなれば早く良醫(よきいしゃ)を迎(よび)て療理を請べし、延握(のびのびに)すれば此病となる、可恐(おそるべし) 
【用法】
河蚌(和名ドブガイ又はカタカイ)を煮て汁を取り、患處(患部)を洗うべし、又淡(うすき)塩湯或は米とぎ水とぎみずにて洗うもよし、洗嗽(あらいうがい)したるあとへ、後の薬を塗ぬるべし 
・ 尿桶中の白かすを刮(けずり)とり、火にて焙、乾末となし、麝香少許(すこしばかり)入れ研(すり)あわせ、患處(患部)へ塗べし、龍脳少許加え用ゆるもよし、其の方中へ五倍子(はぐろぶし)炒、黒(くろく)し、銅青(あかがねのあおきさび)等分末となし、加え用ゆ、最よし <下巻94丁>
蜣螂數箇取て焼き、灰となし、麝香少し許入て牙齦に擦る、又よし 
白姜蚕、或は蠶脱紙(蚕のかえりたるあとの紙なり)を焼て末となし、麝香少し許入れて研りまぜて患處(あしきところ)に擦(ぬる)べし <下巻94丁>
麝香黄檗青黛雄黄、末となし、ふりかくべし、若し患處(あしきところ)、既蝕損死肌(もはやかけくされ、しにく)有、綿を筋様の物の端へ纏、薬をひたして、蝕損(かけ)たる死肉へ擦却(すりつけ)て、且軟帛(やわらかいわた)にて悪血を拭去りて、右の薬をふりかけべし、此薬を用て効(しるし)なきは、定粉(女子の用いる「おしろい」なり、薬店にては「唐土(とうのつち)」と云う)半両を加え、同じく研りて用ゆべし、用様は前の方と同じ <下巻94丁>
関連情報新訂和漢薬
参考文献CP2020: 中華人民共和国薬典 (2020年版) .
C1) 和漢薬百科図鑑 Vol. Ⅱ, pp 273-276.
L1) 官準 広恵済急方.
L2) 近世歴史資料集成第2期 (第9巻) 民間治療(2).
L3) 新訂 和漢薬.
備考市販品は通常 「玉麝香」 と 「身麝香」 がある.
1)玉麝香は中国では整麝香,整香,毛香などと称され,袋状腺嚢,いわゆる麝香嚢に入ったものである.日本に輸入されるものはネパールもしくはチベット産の 「本口手」 と称されるものがほとんどで,わずかに中国雲南,四川省の 「雲南手」 がある.
2)身麝香は,中国で麝香仁,散香と称されて,麝香嚢内に包蔵されている中身である.芳香が濃厚で,久しく香りを聞くと独特の有騒性の香味が感じられ,味はやや苦く,口から鼻にぬける香味があるものが佳品である.現在市販の麝香はすべて人工的な加工が施され,純品はないが,そのうちでも化学的評価法によって muscone 2%以上,C19-steroid 0.5%以上のものは一応信頼しべき麝香であるとされている.高級香水にも配合される.
更新日2021/09/28